再び始まった“お泊まり会”
「ただいまー」
そんな夫の声とともに、玄関に入ってきたのは、またもやさやかと、あのバイトの子。
お昼ごろ、夫が2人を迎えに行ったらしく、まるで“楽しい週末の始まり”みたいな雰囲気で3人が家に戻ってきた。
私は台所で洗い物をしていて、笑いながら話す声を聞いたとき、心のどこかで「またか」と思った。
けどその感情にフタをするように、食器を強めにこすった。
また夫婦の寝室を明け渡した夜
あの日のことは、なぜかあまり記憶がない。
たぶん、心が覚えるのを拒否していたんだと思う。
でもひとつだけ、はっきり覚えていることがある。
その夜も、前回と同じように夫婦の寝室に女の子2人が寝た。
私は夫と一緒に1階のリビングで寝るのかと思っていたけれど、結局夫は寝るタイミングもわからないまま、2階へと消えていった。
私は子どもと布団に入ったけど、寝つけなかった。
「泊まる泊まる!」軽すぎるやりとり
次の日の昼、リビングにいた私の耳に、階段の上から夫の声が聞こえてきた。
「なあ、もう1日泊まったら?」
それに対して、さやかともう1人のバイトの子が「え!泊まる泊まる〜!」と声を弾ませて答えた。
なんでそんなに軽く決まるの?
私は、あのとき自分が“家族”の優先順位から外された気がした。
クッションに染みついた「夫の匂い」
その日の夜、私はなぜかいつもより疲れていた。
無意識のうちにため息をついて、ソファに座ったときのこと。
ふと、リビングのクッションを手に取ると、夫の匂いが鼻先をかすめた。
うちの夫は体臭が強めで、特にこのクッションはいつも彼の匂いが染みついている。
そのときリビングにいたさやかに、私はなんとなくこう言った。
「これさ、すごい臭いよ?大丈夫?」
さやかはクンクンと嗅いでから、ニコっと笑って言った。
「え、めっちゃいい匂いがする。この匂い、落ち着く!」
一瞬、時間が止まった。
クッションを持ち帰った“あの子”
夫はその言葉にまんざらでもない顔で「まじで?じゃあそのクッション、さやかにあげるわ!」と笑っていた。
私は思わず「なんでやねん」と突っ込んだけど、冗談じゃなく本当にさやかはそのクッションを持ち帰った。
クッションって、ただの布じゃない。
その人の匂い、存在、日常…そういうものが染み込むものだ。
それを「いい匂い」「落ち着く」って笑って持ち帰ったさやかを見て、私は確信した。
ああ、この子、夫のことが好きなんだ。
「好き」って言葉を口にしなくても
直接「好き」と言わなくても、人の気持ちって伝わる。
それに気づいてしまった私は、その夜、眠れなかった。
ソファの上には、クッションの“抜け殻”のような空気だけが残っていた。
「この子だけだと思ってたんだけどな…」
私は心の中でそうつぶやいた。
ゆるりとやっております。
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