車内の沈黙と夫の緊張
夏の終わり。夜中2時過ぎ、夫と一緒に車に乗り、さやかの家まで片道30分の距離を走る。
助手席で私は黙ったまま、夫の横顔を見ていた。
夫はいつになく緊張していた。
口数は少なく、ハンドルを握る手に力が入ってた。すると夫が
「ここの坂を下ったらさやかの家」
「ふーん」とだけ答えたけど、心の中ではざわざわが止まらなかった。
さやかの家が近づくにつれて、夫の顔がますます険しくなる。
家が見えた瞬間、夫は息を吐いた。
「あーよかった。生きてる」
「なんでそう思うの?」
「……さやか、気持ちが不安定になると、誰にも会いたくないって言ってた。車があるってことは、家にいる。だから、無事なんだと思う」
「そっか。よかったね」
……この人、本気でさやかのことを心配して、ここまで来たんだ。
連れてこられた私は、なんなんだろう。
自分の立場を考えれば考えるほど、虚しさだけが残った。
コンビニのおにぎりと夫の「ありがとう」
さやかの家を通り過ぎたあと、近くのコンビニに車を止めた。
夫がつぶやいた。
「ありがとうね。お腹すいただろ?おにぎりでも買おうか」
私たちは、無言でおにぎりを食べた。
車内の沈黙が、妙に重たかった。
私の頭の中では、疑問と怒りと呆れがぐるぐる回っていた。
どうして私は、夫の“推し”のメンタルケアに深夜付き合わされてるのか。
しかも妊娠中で、家では甥っ子と子どもが寝ているというのに。
明け方、夫の部屋での話し合い
帰宅すると、甥っ子も子どももまだ起きていなかった。
そのことにホッとしつつも、心のどこかで疲れきっていた。
布団に戻れるかと思ったそのとき。
夫が私を自分の部屋に呼んだ。
「少し話そうか」
ああ、そうくるのか。
早く寝たい気持ちを押し殺して、夫の部屋に入った。
眠気と怒りを落ち着かせながら、静かに言った。
「お願いだから、こういうこと二度としないで。あと、さやかの話も、もう聞きたくない」
夫はうなだれた顔で話し始めた。
「ほんとにごめん。…怖かったんだ。さやかがいなくなっちゃうんじゃないかって、すごく不安だった。
でも、もう行かない。絶対に行かない。信じてほしい」
私は怒りと虚しさを感じながらこう言った。
「妊娠してるし、これ以上ストレス抱えたくないの」
夫は「ほんとにごめん」と繰り返し、深く頭を下げた。
その夜は、明け方5時にようやく布団に入った。
心も体も、限界だった。
誰かに話すだけで、心がちょっと軽くなることってあるよね。オンラインだからこそ、気を張らずに話せる場所があるって知ってほしい。
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さやかの話が消えた日々
そして不思議なことに——
その日から、夫は一切、さやかの話をしなくなった。
あの夜を境に、さやかという存在は、夫の口から消えた。
これは2人の関係に私が気づくまで続いた。
ゆるりとやっております。
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